やみへのしょ
闇への書

冒頭文

第一話 私は昨日土堤(どて)の土に寢轉びながら何時間も空を見てゐた。日に照らされた雜木山の上には動かない巨きな雲があつた。それは底の方に藤紫色の陰翳(いんえい)を持つてゐた。その雲はその尨大な容積のために、それからまたその藤紫色の陰翳のために、茫漠とした悲哀を感じさせた。それは恰もその雲のおほひかぶさつてゐる地球の運命を反映してゐるやうに私には思へた。 雜木山の麓から私の坐つてゐた

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 現代日本文学全集 43
  • 筑摩書房
  • 1954(昭和29)年5月25日