はつこい
初恋

冒頭文

ああ思い出せばもウ五十年の昔となッた。見なさる通り今こそ頭(かしら)に雪を戴(いただ)き、額にこのような波を寄せ、貌(かお)の光沢(つや)も失(う)せ、肉も落ち、力も抜け、声もしわがれた梅干老爺(おやじ)であるが,これでも一度は若い時もあッたので、人生行路の蹈始(ふみはじ)め若盛りの時分にはいろいろ面白いこともあッたので,その中で初めて慕わしいと思う人の出来たのは、そうさ、ちょうど十四の春であッた

文字遣い

新字新仮名

初出

「都の花」1889(明治22)年1月

底本

  • 日本の文学 77 名作集(一)
  • 中央公論社
  • 1970(昭和45)年7月5日