きょうじんにっき
狂人日記

冒頭文

十月三日 けふといふ日にはずゐぶん變なことがあつた。朝、起きたのはかなり遲かつたが、マヴラが長靴の磨いたのを持つて來た時、いま何時だと訊いた。すると、もうとつくに十時を打ちましたとの答へに、おれは大急ぎで身じまひをした。正直なところ、役所へなんかてんで行きたくはないのだ。行けば、きつと課長の奴が澁い面(つら)をしやがるにきまつてゐる。奴はもうこの間ぢゆうからおれの顏さへ見ればこんなことを言やあが

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 狂人日記
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1937(昭和12)年6月15日