遠州(えんしゅう)の御前崎(おまえざき)に西林院(せいりんいん)と云う寺があった。住職はいたって慈悲深い男であったが、ある風波の激しい日、難船でもありはしないかと思って外へ出てみた。すると、すぐ眼の下になった怒濤(どとう)の中に、船の破片らしい一枚の板に一匹の子猫がしがみついているのが見える。そこで住職は山をかけおりて漁師の家へ往って、 「可哀そうだから、たすけてやってくれ」 と云った