スパーク
スパーク

冒頭文

一 当らずさわらずの事を書こうとするとなかなか六(むつ)かしい。真理は普遍だから、少しでも真理に近いことを書けば、すべての人があてられ、痛い所をさわられる。優れた小説を読むとすべての人が自分をモデルにしたのではないかと思う。己(おれ)がモデルだと自称する人が幾人も出て来たりする。「坊ちゃん」のモデルの多いのは当然としても、自(みずか)ら「赤シャツ」と称するのが出て来たりするから面白い。元来作

文字遣い

新字新仮名

初出

「理学部会誌」1928(昭和3)年9月

底本

  • 寺田寅彦全集 第三巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年2月5日