むだい(じゅう)
無題(十)

冒頭文

三四日梅雨のように降りつづいた雨がひどい地震のあと晴れあがった。 五時すぎて夕方が迫っているのに 雀がチク チ チチと楽しそうに囀り、まだ濡れて軟かく重い青葉は眼に沁みる程 蒼々として見える。どこで(ママ)ホーホケキョと鶯の声がする。遠くの欅の梢や松の梢のあたり 薄すり青っぽい靄がこめている。まだポトリ ポトリ 雨のしずくがトタン屋根にしたたっているが、前の瓦屋根越に見えるよその排気筒はしず

文字遣い

新字新仮名

初出

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

底本

  • 宮本百合子全集 第十八巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年5月30日