まぼろし
まぼろし

冒頭文

絶望 文造(ぶんぞう)は約束どおり、その晩は訪問しないで、次の日の昼時分まで待った。そして彼女を訪(たず)ねた。 懇親の間柄とて案内もなく客間に通って見ると綾子(あやこ)と春子とがいるばかりであった。文造はこの二人(ふたり)の頭(つむり)をさすって、姉(ねえ)さんの病気は少しは快(よ)くなったかと問い、いま会うことができようかと聞いて見た。 『姉さんはおっかさんとどこかへ

文字遣い

新字新仮名

初出

「国民之友」1898(明治31)年5月

底本

  • 武蔵野
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1939(昭和14)年2月15日、1972(昭和47)年8月16日改版