ほし

冒頭文

都に程(ほど)近き田舎(いなか)に年わかき詩人住みけり。家は小高き丘の麓(ふもと)にありて、その庭は家にふさわしからず広く清き流れ丘の木立(こだ)ちより走り出(い)でてこれを貫き過ぐ。木々は野生(のば)えのままに育ち、春は梅桜乱れ咲き、夏は緑陰深く繁(しげ)りて小川の水も暗く、秋は紅葉(もみじ)の錦(にしき)みごとなり。秋やや老いて凩(こがらし)鳴りそむれば物さびしさ限りなく、冬に入りては木の葉落

文字遣い

新字新仮名

初出

「国民之友」1896(明治29)年12月

底本

  • 武蔵野
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1939(昭和14)年2月15日、1972(昭和47)年8月16日改版