かわぎり
河霧

冒頭文

上田豊吉(うえだとよきち)がその故郷(ふるさと)を出たのは今よりおおよそ二十年ばかり前のことであった。 その時かれは二十二歳であったが、郷党みな彼が前途(ゆくすえ)の成功を卜(ぼく)してその門出(かどで)を祝した。 『大いなる事業』ちょう言葉の宮の壮麗(うるわ)しき台(うてな)を金色(こんじき)の霧の裡(うち)に描いて、かれはその古き城下を立ち出(い)で、大阪京都をも見ないで直ちに

文字遣い

新字新仮名

初出

「国民之友」1898(明治31)年8月

底本

  • 武蔵野
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1939(昭和14)年2月15日、1972(昭和47)年8月16日改版