きがくてきげんかく
器楽的幻覚

冒頭文

ある秋仏蘭西(フランス)から来た年若い洋琴家(ピアニスト)がその国の伝統的な技巧で豊富な数の楽曲を冬にかけて演奏して行ったことがあった。そのなかには独逸(ドイツ)の古典的な曲目もあったが、これまで噂ばかりで稀にしか聴けなかった多くの仏蘭西系統の作品が齎(もた)らされていた。私が聴いたのは何週間にもわたる六回の連続音楽会であったが、それはホテルのホールが会場だったので聴衆も少なく、そのため静かなこん

文字遣い

新字新仮名

初出

「詩と詩論」1928(昭和3)年12月

底本

  • 檸檬・ある心の風景
  • 旺文社文庫、旺文社
  • 1972(昭和47)年12月10日