すいごう
水郷

冒頭文

水の郷(さと)と謂(い)はれた位の土地であるから、實に川の多い村であツた。川と謂ツても、小川であツたが、自分の生れた村は、背戸(せど)と謂はず、横手と謂はず、縱(たて)に横に幾筋となく小川が流れてゐて、恰ど碁盤(ごばん)の目のやうになツてゐた。それに何(ど)の川の水も、奇麗に澄むでゐて、井戸の水のやうに冷(つめ)たかツた。川が多くツて、水が奇麗だ! それで、もう螢が多いといふ事が解る。螢は奇麗な水

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「文庫」1906(明治39)年7月15日

底本

  • 三島霜川選集(上巻)
  • 三島霜川選集刊行会
  • 1979(昭和54)年4月8日