なつのよのおと
夏の夜の音

冒頭文

時は明治卅二年七月十二日夜、処は上根岸の某邸の構内の最も奥の家、八畳の間の真中に病の牀を設けて南側の障子明け放せば上野おろしは闇の庭を吹いて枕辺の灯火を揺かす。我は横に臥したる体をすこしもたげながら片手に頭をさゝへ片手に蚊を打つに余念無し。 午後八時より九時迄 北側に密接してある台所では水瓶の水を更ふる音、茶碗、皿を洗ふ音漸く止んで、南側の垣外にある最合(もあひ)井の釣瓶(つる

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆25 音
  • 作品社
  • 1984(昭和59)年11月25日