はちがだんごをこしらえるはなし
蜂が団子をこしらえる話

冒頭文

私の宅の庭の植物は毎年色々な害虫のためにむごたらしく虐待される。せっかく美しく出揃った若葉はいつの間にかわるい昆虫のために食い荒らされる。なかんずくいちばんひどくやられるのは薔薇である。羽根が黒くて腰の黄色い小さな蜂が、柔らかい若芽の茎の中に卵を産みつけると、やがて茎の横腹が竪にはじけ破れて幼虫が生れ出る。これが若葉の縁に鈴成りに黒い頭を並べて、驚くべき食慾をもって瞬く間にあらゆる葉を食い尽さない

文字遣い

新字新仮名

初出

「解放」1921(大正10)年7月

底本

  • 寺田寅彦全集 第二巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年1月9日