ちいさなできごと
小さな出来事

冒頭文

一 蜂 私の宅(うち)の庭は、わりに背の高い四(よ)つ目垣(めがき)で、東西の二つの部分に仕切られている。東側の方のは応接間と書斎とその上の二階の座敷に面している。反対の西側の方は子供部屋と自分の居間と隠居部屋とに三方を囲まれた中庭になっている。この中庭の方は、垣に接近して小さな花壇があるだけで、方三間(げん)ばかりの空地は子供の遊び場所にもなり、また夏の夜の涼み場にもなっている。

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1920(大正9)年

底本

  • 寺田寅彦全集 第二巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年1月9日