あるたんていじけん
ある探偵事件

冒頭文

数年前に「ボーヤ」と名づけた白毛の雄猫が病死してから以来しばらくわが家の縁側に猫というものの姿を見ない月日が流れた。先年、犬養内閣が成立したとおなじ日に一羽のローラーカナリヤが迷い込んで来たのを捕えて飼っているうち、ある朝ちょっとの不注意で逃がしてしまった。そのおなじ日の夕方帰宅して見ると茶の間の真中に一匹の真白な小猫が坐り込んですましてお化粧をしていた。家人に聞いてみると、どこからともなく入り込

文字遣い

新字新仮名

初出

「大阪毎日新聞」1934(昭和9)年2月14日

底本

  • 寺田寅彦全集 第二巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年1月9日