せっぷん
接吻

冒頭文

一 維也納の Gürtel(ギユルテル) 街は、ドナウ運河の近くの、フランツ・ヨゼフ停車場の傍から起つて、南方に向つて帯のやうに通つてゐる大街である。そこには、質素な装をした寂しい女が男を待つてゐたりした。金づかひの荒くない日本の留学生は、をりふし秘かにさういふ女と立話をすることもあつた。 西暦一九二二年の或る夏の夕に、僕はささやかな食店で一人夕食を済した。そして、いつしか一人で

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 現代日本文學大系 38 齋藤茂吉集
  • 筑摩書房
  • 1969(昭和44)年11月29日