いまどしんじゅう
今戸心中

冒頭文

一 太空(そら)は一片(ぺん)の雲も宿(とど)めないが黒味渡ッて、二十四日の月はまだ上らず、霊あるがごとき星のきらめきは、仰げば身も冽(しま)るほどである。不夜城を誇り顔の電気燈にも、霜枯れ三月(みつき)の淋(さび)しさは免(のが)れず、大門(おおもん)から水道尻(すいどうじり)まで、茶屋の二階に甲走(かんばし)ッた声のさざめきも聞えぬ。 明後日(あさッて)が初酉(はつとり)の

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸倶楽部」1896(明治29)年7月

底本

  • 日本の文学 77 名作集(一)
  • 中央公論社
  • 1970(昭和45)年7月5日