かこ
過古

冒頭文

母親がランプを消して出て来るのを、子供達は父親や祖母と共に、戸外で待っていた。 誰一人の見送りとてない出発であった。最後の夕餉(ゆうげ)をしたためた食器。最後の時間まで照していたランプ。それらは、それらをもらった八百屋(やおや)が取りに来る明日の朝まで、空家の中に残されている。 灯が消えた。くらやみを背負って母親が出て来た。五人の幼い子供達。父母。祖母。——賑(にぎや)かな、し

文字遣い

新字新仮名

初出

「青空」1926(大正15)年1月

底本

  • 檸檬・ある心の風景
  • 旺文社文庫、旺文社
  • 1972(昭和47)年12月10日