ながさきのいちべつ
長崎の一瞥

冒頭文

第一日 夜なかに不図目がさめた。雨の音がする。ぱらぱら寝台車の屋根を打つ音が耳に入った。私は、家に臥(ね)て静に夜の雨音を聴くようなすがすがしいいい心持がした。 午前六時何分かに、鳥栖(とす)で乗換る頃には霧雨であった。南風崎(はえのさき)、大村、諫早(いさはや)、海岸に沿うて遽しくくぐる山腹から出ては海を眺めると、黒く濡れた磯の巖、藍がかった灰色に打ちよせる波、舫(もや)った舟の

文字遣い

新字新仮名

初出

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

底本

  • 宮本百合子全集 第十八巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年5月30日