うえだあきなりのばんねん
上田秋成の晩年

冒頭文

文化三年の春、全く孤独になつた七十三の翁(おきな)、上田秋成は京都南禅寺内の元の庵居(あんきょ)の跡に間に合せの小庵を作つて、老残の身を投げ込んだ。 孤独と云つても、このくらゐ徹底した孤独はなかつた。七年前三十八年連れ添つた妻の瑚璉尼(これんに)と死に別れてから身内のものは一人も無かつた。友だちや門弟もすこしはあつたが、表では体裁のいいつきあひはするものの、心は許せなかつた。それさへ近来

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文学界」1935(昭和10)年8月

底本

  • 日本幻想文学集成10 岡本かの子
  • 国書刊行会
  • 1992(平成4)年1月23日