ろうしゅのいちじき
老主の一時期

冒頭文

「お旦那(だんな)の眼の色が、このごろめつきり鈍つて来たぞ。」 店の小僧や番頭が、主人宗右衛門のこんな陰口を囁(ささや)き合ふやうになつた。宗右衛門の広大な屋敷内に、いろは番号で幾十戸前の商品倉が建て連ねてある。そのひとつひとつを数人宛(ずつ)でかためて居る番頭や小僧の総数は百人以上であつた。その多人数の何処(どこ)か一角から起つたひとつの話題が、全体へ行き渡るまでには余程の時間がかゝる。そ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本幻想文学集成10 岡本かの子
  • 国書刊行会
  • 1992(平成4)年1月23日