それはまだ、東京の町々に井戸のある時分のことであつた。 これらの井戸は多摩川から上水を木樋でひいたもので、その理由から釣瓶(つるべ)で鮎(あゆ)を汲(く)むなどと都会の俳人の詩的な表現も生れたのであるが、鮎はゐなかつたが小鯉(こごい)や鮒(ふな)や金魚なら、井戸替へのとき、底水を浚(さら)ひ上げる桶(おけ)の中によく発見された。これらは井の底にわく虫を食べさすために、わざと入れて置くさか