ふゆのひ
冬の日

冒頭文

一 季節は冬至に間もなかった。堯(たかし)の窓からは、地盤の低い家々の庭や門辺に立っている木々の葉が、一日ごと剥(は)がれてゆく様(さま)が見えた。 ごんごん胡麻(ごま)は老婆の蓬髪(ほうはつ)のようになってしまい、霜に美しく灼(や)けた桜の最後の葉がなくなり、欅(けやき)が風にかさかさ身を震わすごとに隠れていた風景の部分が現われて来た。 もう暁刻の百舌鳥(もず)も来なく

文字遣い

新字新仮名

初出

「青空」1927(昭和2)年2、4月

底本

  • 檸檬・ある心の風景
  • 旺文社文庫、旺文社
  • 1972(昭和47)年12月10日