むだい(さん)
無題(三)

冒頭文

彼と別れて居ると云う事は、日を経るに連れて、一層辛いものに成って来た。 二人が一緒に居た時には、彼女自身に想像も出来なかった、何かひどく狂暴な力が、嵐のように捲起って、時には、一夜の安眠をさえ与えない程、若い健な、豊饒な感情の所有者である彼女を苛むのである。 其は勿論、思慕と呼ばれるべき感情であろう。然し、何か追想とか、思いとか云う、優雅な、同時に或距離を持った言葉では云い表わ

文字遣い

新字新仮名

初出

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

底本

  • 宮本百合子全集 第十八巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年5月30日