ひとをころすいぬ |
人を殺す犬 |
冒頭文
右手に十勝岳(とかちだけ)が安すッぽいペンキ画の富士山のように、青空にクッキリ見えた。そこは高地だったので、反対の左手一帯はちょうど大きな風呂敷を皺(しわ)にして広げたように、その起伏がズウと遠くまで見られた。その一つの皺の底を線が縫って、こっちに向ってだんだん上ってきている。釧路(くしろ)の方へ続いている鉄道だった。十勝川も見える。子供が玩具にしたあとの針金のようだった、がところどころだけまぶゆ
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 日本文学全集43 小林多喜二 徳永直集
- 集英社
- 1967(昭和42)年12月12日