やみのえまき
闇の絵巻

冒頭文

最近東京を騒がした有名な強盗が捕(つか)まって語ったところによると、彼は何も見えない闇の中でも、一本の棒さえあれば何里でも走ることができるという。その棒を身体の前へ突き出し突き出しして、畑でもなんでも盲滅法(めくらめつぽう)に走るのだそうである。 私はこの記事を新聞で読んだとき、そぞろに爽快(そうかい)な戦慄(せんりつ)を禁じることができなかった。 闇(やみ)! そのなかではわれわ

文字遣い

新字新仮名

初出

「詩・現実」1930(昭和5)年10月

底本

  • 檸檬・ある心の風景
  • 旺文社文庫、旺文社
  • 1972(昭和47)年12月10日