でいねい
泥濘

冒頭文

一 それはある日の事だった。—— 待っていた為替(かわせ)が家から届いたので、それを金に替えかたがた本郷へ出ることにした。 雪の降ったあとで郊外に住んでいる自分にはその雪解けが億劫(おっくう)なのであったが、金は待っていた金なので関(かま)わずに出かけることにした。 それより前、自分はかなり根(こん)をつめて書いたものを失敗に終わらしていた。失敗はとにかくとして

文字遣い

新字新仮名

初出

「青空」1925(大正14)年7月

底本

  • 檸檬・ある心の風景
  • 旺文社文庫、旺文社
  • 1972(昭和47)年12月10日