あとがき(『みやもとゆりこせんしゅう』だいななかん)
あとがき(『宮本百合子選集』第七巻)

冒頭文

暗くしめっぽい一つの穴ぐらがある。その穴ぐらの底に一つの丸い樽がころがされてあった。その樽は何年もの間、人目から遮断されたその暗がりにころがされていて、いそがしく右往左往する人々は、その穴ぐらをふさいでいる厚板の上をふんで歩いていながら、その足の下にそんな樽のあることは心づかなかった。よしんば、そこの穴ぐらや樽について知っている人があったにしろ、そのことについては黙っていた。なぜなら人々は、云って

文字遣い

新字新仮名

初出

「宮本百合子選集 第七巻」安芸書房、1948(昭和23)年10月

底本

  • 宮本百合子全集 第十八巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年5月30日