あるがけうえのかんじょう
ある崖上の感情

冒頭文

1 ある蒸し暑い夏の宵(よい)のことであった。山ノ手の町のとあるカフェで二人の青年が話をしていた。話の様子では彼らは別に友達というのではなさそうであった。銀座などとちがって、狭い山ノ手のカフェでは、孤独な客が他所(よそ)のテーブルを眺めたりしながら時を費すことはそう自由ではない。そんな不自由さが——そして狭さから来る親しさが、彼らを互いに近づけることが多い。彼らもどうやらそうした二人らしいの

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸都市」1928(昭和3)年7月

底本

  • 檸檬・ある心の風景
  • 旺文社文庫、旺文社
  • 1972(昭和47)年12月10日