びろうど
天鵞絨

冒頭文

一 理髮師(とこや)の源助さんが四年振で來たといふ噂が、何か重大な事件でも起つた樣に、口から口に傳へられて、其午後のうちに村中に響き渡つた。 村といつても狹いもの。盛岡から青森へ、北上川に縺(もつ)れて逶迤(うねうね)と北に走つた、坦々たる其一等道路(と村人が呼ぶ)の、五六町並木の松が斷絶(とだ)えて、兩側から傾き合つた茅葺勝の家並の數が、唯九十何戸しか無いのである。村役場と駐

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 石川啄木作品集 第二巻
  • 昭和出版社
  • 1970(昭和45)年11月20日