一 私が釧路の新聞へ行つたのは、恰度(ちやうど)一月下旬の事、寒さの一番酷(きび)しい時で、華氏寒暖計が毎朝零下二十度から三十度までの間を昇降して居た。停車場から宿屋まで、僅か一町足らずの間に、夜風の冷に頥を埋めた首卷が、呼氣(いき)の濕氣(しめりけ)で眞白に凍つた。翌朝目を覺ました時は、雨戸の隙を潜って空(うそ)寒く障子を染めた曉の光の中に、石油だけは流石に凍らぬと見えて、心(しん)を