のきもるつき
軒もる月

冒頭文

「我が良人(をつと)は今宵(こよひ)も帰りのおそくおはしますよ。我が子は早く睡(ねむ)りしに、帰らせ給はゞ興(きよう)なくや思(おぼ)さん。大路(おほぢ)の霜に月氷(こほ)りて、踏む足いかに冷たからん。炬燵(こたつ)の火もいとよし、酒もあたゝめんばかりなるを。時は今何時(なんどき)にか、あれ、空に聞ゆるは上野(うへの)の鐘ならん。二ツ三ツ四ツ、八時(はちじ)か、否(いな)、九時(くじ)になりけり。

文字遣い

新字旧仮名

初出

「毎日新聞」1895(明治28)年4月3、5日

底本

  • 全集樋口一葉 第二巻 小説編二〈復刻版〉
  • 小学館
  • 1979(昭和54)年10月1日、1996(平成8)年11月10日復刻版