はし

冒頭文

1 人と別れた瞳のように、水を含んだ灰色の空を、大きく環を描きながら、伝書鳩の群が新聞社の上空を散歩していた。煙が低く空を這って、生活の流れの上に溶(と)けていた。 黄昏(たそがれ)が街の灯火に光りを添(そ)えながら、露路の末まで浸みて行った。 雪解けの日の夕暮。——都会は靄の底に沈み、高い建物の輪郭が空の中に消えたころ、上層の窓にともされた灯が、霧の夜の灯台のように瞬(またた)いていた。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本文学全集88 名作集(三)昭和編
  • 集英社