あおくさ
青草

冒頭文

一 杉兄弟は支配人の娘の歌津子とほとんど同じ一つの揺籃の中で育った。彼らが歌津子の母親の乳房を見て甘い微(かすか)な戦慄を覚えたこともある。歌津子が彼らの父の大きな手で真紅(まっか)な帽子を被(かぶ)せられて、誇らしさとよろこびに夢中になったこともある。それから、細い色糸が、彼ら三人の手から手へ、唄に合せて、幾度、美しい幻影を織ったことだろう。弟の手がそっとうしろから彼女の清い眉の上を蔽

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸時代」1924(大正13)年12月

底本

  • 日本文学全集88 名作集(三)昭和編
  • 集英社
  • 1970(昭和45)年1月25日