はんこん
瘢痕

冒頭文

躍場が二つもある高い階段を軽くあがつて、十六ばかりの女給仕が社長室の扉をそつと叩いた。 「よろしい。」社長の松村初造はちよいと顔を蹙めたが、すぐ何気ない風になつて、給仕を呼入れた。 「あの、田代さんからお電話でございますが。」 「うむ。」 「只今からお伺ひいたしたいんでございますが……。」 「居ると云つたか。僕が、ここに。」松村はうるささうに中途で給仕の詞を遮つた。 「いいえ。あの

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 定本 平出修集
  • 春秋社
  • 1965(昭和40)年6月15日