ジガばち
ジガ蜂

冒頭文

初夏と共に私の病室をおとづれる元気な訪問客はジガ蜂である。ジガ蜂の颯爽(さつさう)たる風姿はいかにもさかんな活動的な季節の先駆けたるにふさはしく、沈んだ病室内の空気までがにはかに活気を帯びて来るやうに思はれるのだつた。彼等は一刻もぢつとしてゐるといふことを知らない。飛んでゐる時は勿論、とまつてゐる時も溢るる精気に絶えず全身を小刻みにキビキビ動かし続けてやまない。胸から腹に続くところは糸のやうに細く

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 現代日本文學大系 70 武田麟太郎・島木健作・織田作之助・檀一雄集
  • 筑摩書房
  • 1970(昭和45)年6月25日