あるおとこのこいぶみしょしき
或る男の恋文書式

冒頭文

お別れしてから、あの煙草屋の角のポストの処まで、無我夢中で私が走つたのを御存じですか。あれはあなたにお別れしたくない心が、一種の反動作用を、私の行為の上に現はしましたの。それから私、走りながらも夢中の夢のやうに考へましたことは私がもし一寸でもふりかへつたら私はまたあなたの方へ……いえつひにあなたへ走りかへつて、永遠にあなたから離れられない、あの月夜の、月の雫が太く一本下界に落ちて、そのまゝ停つたや

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻36 恋文
  • 作品社
  • 1994(平成4)年2月25日