しらふじ |
| 白藤 |
冒頭文
夢で見たような一つの思い出がある。 小さい自分が、ピアノの前で腰かけにかけている。脚をぶらぶらさせて、そして、指でポツン、ポツンと音を出している。はにかんで、ほんとうに弾けるようには指を動かさないで、音だけ出しているのであった。 わきに、一人の若い女のひとが立っていた。ふっくりした二枚重ねの襟もとのところが美しい感じで印象されているが、顔だちや声やは思い出せない。何を話したのだ
文字遣い
新字新仮名
初出
「孝子の俤」1944（昭和19）年12月発行
底本
- 宮本百合子全集 第十七巻
- 新日本出版社
- 1981（昭和56）年3月20日