モスクワ
モスクワ

冒頭文

三時すぎるともう日が暮れかかって、並木道にアーク燈が燦きはじめ、家路をいそぐ勤め帰りの人々の姿が雪の上に黒く動く。夕方の散歩もアーク燈にてらされた雪の並木路で、くるくるにくるまれた小さい子供たちは、熊の仔のような手袋はめた手に橇をひっぱって、嬉々とその間をすべりまわって遊んでいる。 やがて、泥濘とたのしい雨だれの響きで町中が充たされる春の雪解がはじまって、並木の菩提樹が芽立ったと思うと、

文字遣い

新字新仮名

初出

不詳

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日