ちちのてがみ
父の手紙

冒頭文

ユリチャン、コレガオトーサマノ、ノッテイルフネデス。 片仮名でそういう文句をかいた欧州航路の船のエハガキが、五つの私へ父からおくられて来た。父はイギリスへ行くところで、まだ字の読めなかった娘へも最初のたよりを、そのようにして書いてよこしたのであった。 灯がその火屋(ほや)の中にともるとキラキラと光るニッケル唐草の円いランプがあって、母は留守の父のテーブルの上にそのランプを明々と

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人朝日」1941(昭和16)年4月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日