いのちのしょや
いのちの初夜

冒頭文

駅を出て二十分ほども雑木林の中を歩くともう病院の生垣(いけがき)が見え始めるが、それでもその間には谷のように低まった処や、小高い山のだらだら坂などがあって人家らしいものは一軒も見当たらなかった。東京からわずか二十マイルそこそこの処であるが、奥山へはいったような静けさと、人里離れた気配があった。 梅雨期にはいるちょっと前で、トランクを提(さ)げて歩いている尾田は、十分もたたぬ間にはやじっとり肌が

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学界」1936(昭和11)年2月号

底本

  • いのちの初夜
  • 角川文庫、角川書店
  • 1955(昭和30)年9月15日、1979(昭和54)年7月30日改版18版