まちがい
まちがい

冒頭文

夜の八時ごろ、お隣の女中さんが柿の木の彼方から、お電話ですと呼んでくれた。出てみたら弟の家内で、いそがしいところ呼び立てて御免なさいね、百合ちゃん、四谷旭町——旭は九に日をのせた旭ね、そこの大久保ってところ知っていて? と訊くのであった。さア、大久保——何なの? すると、きっとわきに六つの甥がいでもするのだろう。セブンなんだけれど、ということである。そこからハガキが来てね、上落合へ一遍行って回送さ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新風土」1939(昭和14)年12月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日