みないしゃしんへ
見ない写真へ

冒頭文

どんな写真がとれただろうかしら。まだ見ていない。それなのに、その写真に添える文章を書くというのは何だか変である。 きっと濡縁がうつっていることだろう。濡縁のある庭というと特別な趣でもありそうだが、ここに繁茂しているのは八ツ手と青木である。窪川鶴次郎さんが、うまく樹を植え込んで上げるよと自信ありげに約束してくれたが、実現しないうちに梅雨も上ってしまいそうだ。 一九三七年八月

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸」1937(昭和12)年8月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日