ちちのてちょう
父の手帳

冒頭文

父は建築家の中でも、書斎で勉強するたちの人でなく、人間の住む家を、様々なその必要の条件にしたがって、事務的に、家族的に、趣味的に建ててゆくという現実の進行を愛したたちでした。そういう気質はいかにも設計家にふさわしい特徴をもっていて、西洋の諺に弁護士と作家と建築家の妻にはなるな、とある、そういう几帳面さを、一面にもっていました。 仕事は事務所で、というのが終生の暮しかたでした。事務所では忙

文字遣い

新字新仮名

初出

「中條精一郎」(追悼録)、国民美術協会、1937(昭和12)年1月発行

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日