かんばやしからのてがみ
上林からの手紙

冒頭文

ふつか小雨が降って、晴れあがったら、今日は山々の眺めから風の音まで、いかにもさやかな秋という工合になった。 山の茶屋の二階からずうっと見晴すと、遠い山襞が珍しくはっきり見え、千曲川の上流に架っているコンクリートの橋が白く光っている上を自動車が走っているのまで、小さく瞰下(みおろ)せる。 まだ苅り入れのはじまらない段々畑で実っている稲の重い黄色、杉山の深い青さ。青苔がところどころ

文字遣い

新字新仮名

初出

「サンデー毎日」1936(昭和11)年11月15日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日