ゆくえふめいのしょじょさく
行方不明の処女作

冒頭文

活字となって雑誌に発表された処女作の前に、忘れることの出来ない、もう一つの小説がある。 私は小学校の一二年の頃から、うちにあった小さいオルガンを弾きおぼえ、五年生時分には自分の好きなのは音楽なのであろうと思っていた。ところが、段々文字がよめ、文章を書くことに興味を覚えてから、音楽もすきだが文学はもっと身近いものとして感じられるようになって来た。そして、恐らくは誰でも一度経験するであろう濫

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人文芸」1935(昭和10)年3月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日