ぎわく
疑惑

冒頭文

今ではもう十年あまり以前になるが、ある年の春私(わたくし)は実践倫理学(じっせんりんりがく)の講義を依頼されて、その間(あいだ)かれこれ一週間ばかり、岐阜県(ぎふけん)下の大垣町(おおがきまち)へ滞在する事になった。元来地方有志なるものの難有(ありがた)迷惑な厚遇に辟易(へきえき)していた私は、私を請待(せいだい)してくれたある教育家の団体へ予(あらかじ)め断りの手紙を出して、送迎とか宴会とかある

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1919(大正8)年7月

底本

  • 芥川龍之介全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年12月1日