ニッポンさんしゅうかん
ニッポン三週間

冒頭文

新聞包をかかえて歩いてる。 中は、衣紋竹二本・昭和糊・キリ・ローソク・マッチ・並にラッキョーの瓶づめ一本。——世帯の持ちはじめ屡々抱えて歩かれる種類の新聞包だ。朝で、帝大構内の歴史的大銀杏の並木は晴れた秋空の下に金色だ。 金色の葉は砂利の上にも散ってる。吹く風の肌ざわり。ラッキョーの瓶。どっちも一寸しめっぽくて、ひやっこくて——帝大のブルジョア大学らしいネオ・ゴチックの建物を眺

文字遣い

新字新仮名

初出

「読売新聞」1930(昭和5)年12月2、3日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日