ほえる
吠える

冒頭文

雨が降って寒い夕暮など、私はわざと傘を右に傾け、その方は見ないようにして通るのだ。どういう人達が主人なのだろう。そしてまた何故、あの小舎を、彼処に置いておくのだろう。私は、坂を下りかけると、遠くから気をつけて行く。白いものがちらりと見えたり、かちゃりと鎖の音がしでもすると、私は矢を禦(ふせ)ぐ楯のようにいそいで傘を右に低く傾ける。登って行く時なら反対の方へ——左へ傾ける。それで眼で見ることだけは免

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1926(大正15)年7月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日