せまいいちそくめん
狭い一側面

冒頭文

私が、初めて瀧田哲太郎氏に会ったのは、西片町に在った元の中央公論社でであった。大正五年の五月下旬であったろうか、私は坪内先生からの紹介で二百枚ばかりの小説を持ち、瀧田氏に面会を求めて行ったのです。 留守かと思ったら、幸い社におられた。小さい木造洋館の石段から入った直ぐのところに在る応接室で待っていると、程なく二階から狭い階子(はしご)を降りて一人の男の人が出て来た。体じゅうの線が丸く、頬

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1925(大正14)年12月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十七巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年3月20日